有害鳥獣駆除とは?


・有害鳥獣とは何か?
イノシシ・カラス・ニホンザル・シカ・クマ・キツネ等が農林水産物を食害・悪戯・人間を襲うなどの害を為す動物の事です。

具体例では、山菜採りの人がクマに襲われる。イノシシやサルが田畑を荒らす。カラスやが収穫直前の果実を食べる・キツネがニワトリなど家畜を襲う。シカが植林した木を食害し、木が枯れ禿げ山になり土石流が起こる などがあります。

私が関わった変わった例では「毎日、ゴルフ場のコースにイノシシが出て、芝生を広範囲に耕して昆虫や筍等の餌を食べるので何とかしてほしい」。平成19年に大分市であった「イノシシが次々と人を襲い3人が重軽傷。市内を横断し、最後は製鉄所に逃げ込んでしまった。工場の中を走り回り、銃器が使えないので私がジープで2回跳ね飛ばしたが死なず、最後はM師匠が軽トラで踏みつけて捕獲」と言うのがあります。

イノシシの農産物への食害は例えるなら、サラリーマンが数ヶ月分の給料をまとめて払われた際に、振り込まれた銀行の預金を泥棒に持って行かれ、途方に暮れるような物です。補償は一切なし!運が悪かったねと言われて途方に暮れるだけ!しかもその泥棒は毎回やって来て預金を荒らしていく!みたいな感じです。実際の泥棒なら警察が捜査し、捕まえれば幾らか戻ってくる可能性はありますが、農産物はそうは行きません。

大分市では、観光名所となっている野生のニホンザルを見ることができる高崎山自然動物公園があるのでサルの駆除は下りません。昭和27年頃、ニホンザルを駆除していたが追いつかず、当時の市長が逆転の発想で観光地にしたからです。高い金網と電気柵で囲んでいますが、どうしても園外に出て悪さをするので、市の職員が付近を巡回し犬やロケット花火で追い散らし、箱罠で捕獲し園内に戻しています。



・被害の実際
これはつい最近、ある老夫婦が栽培しているビワ畑のイノシシによる被害です。とにかく画像を見てください。



ビワの被害本数約60本


落ちている枝はすべてイノシシが折った物


ズタボロになった木。樹皮も剥げている


高い枝もたぐり落としている


わずかに残った果実は頂上部だけ。9割は食べられている


人の腕ほどもある枝を折っている


無惨に散らばった袋と食べ残し



足跡から推定すると、かなりの大物


足をかけた跡


1mほどの高さにも泥がついている

収穫直前のビワ畑を一晩で一気にやられたとのことです。おじいさんと、おばあさんがやっとの思いで栽培していた畑がこれです・・・

木の頂部も含め、すべての果実には新聞紙で作った袋を丁寧に被せてあり、それは大変な苦労だった事は想像に難くありません。一頭の猪の所為で、今年の収穫はほぼゼロ。枝が無惨に折られ、木が傷んだので来年の収穫もどうなるか・・・ と悲しそうにしてました。



・私の決意
被害を防ぐために「電気柵や網で寄せ付けないようにすればいい」と言うのはもちろんですが、いくら補助が出るとはいえ、金銭的な負担があります。年金で細々と生活している老夫婦に電柵等の設置は難しいのです。「そんなところで作物を作るのが悪い」という人がいますが、ではどこに移動するのですか?イノシシの出ない市街地で作るのでしょうか?そんな場所はどこにありますか?そうも行かないでしょう・・・

また、この集落は小さい子供が居る家もあり、夜間はその家の庭をイノシシが通っているのが目撃されています。もし、この子らがイノシシに襲われたらどうするのでしょう?子連れの母シシは危険を感じれば人間に向かってきます。

野生の動物と人間が住む区画とを柵などで分けることは重要ですが、それだけでは完璧ではありません。増えすぎた動物は今まで現れなかった人間の生息域に入り込み、餌を求め田畑を荒らしてしまうのです。

動物も必死で生きているんだ!だから奴らを殺すなんてとんでもない!可哀想だ!と言う意見もありますが、それも理解できます。ですが、必死で生活している人達の事はどうなるのでしょう?農家で被害にあってこの様なことを言う人は出会ったことがありません。彼らの収入源・食料・安全は無視でしょうか?私は上記のビワ畑のおばあちゃんの涙で充血した目が忘れられません。

「だから害獣は殺してしまえばいい」という安易な考えは絶対にしません。実際駆除隊に入る際は、今までの「食べるために殺す」ではないので葛藤がありました。ですが老夫婦や子供達の為にも、増えすぎておかしくなってしまった生息数を環境に対応した数に減らすため、地域住民の人命と財産を守るため、私は駆除活動は必要と考え従事します。



・許可や金銭的な事など
駆除は期間を定めて市役所から、地域を担当する各駆除班に依頼が来ます。捕獲する種類や頭数、捕獲方法などが具体的に指示されます。私の所では主に「イノシシ・カラスを銃器および箱罠で捕獲する」です。

出動すると市からお金が支払われます。まず活動報奨金として一人当たりイノシシは一日2,000円、カラスは2,300円支払われます。これは日当、ガソリン代、弾代すべて込みの値段です。最低賃金(時給約800円)で考えると余裕で割ってます・・・ これ以外にはイノシシを捕獲したときだけ、一頭当たり30,000円が捕獲報奨金として支払われます。ですが、犬がイノシシに切られた際の治療費などに消えます。

カラスは一日に何羽落とそうが活動報奨金以外は出ません。ですが、落としたカラスは畑にぶら下げるとのことで、農家の方達から多く引き取りがあります。そこで野菜や果物に変わることが稀にあるので嬉しいです。




・今後について
一日汗だくになって山を歩き、わずか2,000円ポッチ。都会の人からは白い目で見られ、もし問題が起これば自己責任でマスコミに叩かれる。これはもう辛いボランティアです。私は地域住民のために身を捧げると覚悟を決めていますが、多くの人はそうもいかないようです。高齢化や最近の銃に関する世間の目、警察の異常に厳しい銃所持に関する条件・手続きなどもあり、ハンターは凄い勢いで減っています・・・ 駆除を自衛隊に依頼するという話しがありましたが、あまりにも馬鹿げています。犬はどうするのでしょう?逃げ場所や寝屋など山を知らなければ獲れません。人海戦術でみんな横一列になって四方から山を囲めばいいでしょうけどw また一般的に使われている89式小銃(5.56mm)では現行の狩猟法では使用できませんし、威力が弱いので人間は倒れてもイノシシには効果ありません。戦争に使う弾と猟に使う弾は弾頭も違います。アホなこと言ってないで、今後の有害駆除・ハンター育成について本気で行政や猟友会が検討して対応して欲しい物です。



・おまけ
大分県では獣害対策パンフレットを作成しています。
以下よりダウンロードできます。


鳥獣害から農林作物を守る(イノシシ、シカ、サル、カラス対策) [PDFファイル/8.83MB]
獣害から農林産物を守る(イノシシ、シカ対策) [PDFファイル/7.28MB]
イノシシ対策早わかり [PDFファイル/1.24MB]